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抒情詩のような美味しさ

メソポタミアは歴史文化の他、素晴らしい味でも一歩先を行く地域です。地方独自のガストロノミーは、訪問者に特別なグルメ体験を約束してくれます。

農耕の開始は、人類史における最初の改革に位置付けられています。今から約1万年―1万2千年前に行われた農業革命は、食物生産を向上させ、定住生活への移行において、複雑な経済的、社会的構造構築のきっかけとなりました。この革命は国内における南東アナトリア地方と呼ばれている、歴史地理においては上メソポタミアとして知られている地域で起きました。これは定住生活への移行と農業の象徴である小麦が、この地方の料理の主な食材となる理由になったのです。

小麦(Triticum durum)は、人類史において初めてシャンルウルファ―ディヤルバクル県境にあるカラジャダー地方で栽培され、そこから全世界へ広まりました。

今日でもカラジャダー地方では野生の小麦の先祖スィイェズ(ヒトツブ小麦・アインコーン)小麦が植生しています。小麦だけではありません、ヒヨコ豆が最初に栽培された土地もここなのです。この地方ではヒヨコ豆の消費がかなり高く、ウルファのビレジック郡特有の朝食では、オーブンで焼いたヒヨコ豆をチリペッパー、コショウ、塩で味付けし、トゥルナック・ピデスィという薄いナンで巻く「ノフット・ドゥルム」を食べます。

ウルファ、アンテップ、アドゥヤマン、ディヤルバクルのオーブン料理文化は、12,000年の小麦文化が今日にまで反映した結果です。これらの県では今でも多くの料理がオーブンで作られます。トゥルナック・ピデスィ、ラヴァシュ、バクスマット(ペクシメット)など、多くの小麦粉でできたパンと共に食されます。更には、これらパンの名前はこの地方ではシュメールの時代から変わっていません。シュメール語、ヒッタイト語、そして現在のクルド語で「ナン」というのはパンという意味です。スィヴェレック―カラジャダー間で稲作が始まるまで、小麦は引き割り小麦、押し小麦などの形でいつでも地方の人々の主食として用いられてきました。

小麦と同じように羊が世界で初めて家畜化された土地もメソポタミアとアナトリアです。家畜羊の祖先とであるアナトリアの野生羊(Ovis gmelinii anatolica)は、今でもコンヤ―ボズダーに生息しており、保護下に置かれています。メソポタミアの生息環境は、想像されているのとは反対に、大変豊かで広大な草原に覆われています。草原と羊はお互いに補完し合うふたつの要素です。地方の料理にもよく使われる羊の尾の脂は、羊が厳しい草原の環境下で生き延びるために進化させたエネルギー源です。夏中草原で栄養を摂っている羊が尾の部分に蓄積する8-10キロもの脂塊は、厳しく食物が不足する冬の間に消費されます。脂がのった肉や乳を出す羊は、この地方の料理の主役のうちのひとつです。

この地方で作られている多くのケバブは、羊の肉や脂でつくられます。ウルファ地方だけで作られる、バターをより精製したと澄ましバターである「サーデ・ヤー」は、やはり羊の乳でつくられます。この地方で最もよく消費される飲み物であるアイランは、脂肪分の多い羊の乳のヨーグルトで作られます。ケバブはアラビア語で「グリル、あるいはオーブンで焼いた」という意味です。その語源はセム語の一種であったアッシリア語だと言われています。

地方料理でも最も重要な二つの要素、肉と小麦粉の融合でラフマージュンが生まれました。ラフマージュンはアラビア語で粉ものの生地と肉という意味の「ラヒム・マアアル・アジム」という言葉が語源になっています。

現在メソポタミア料理の主な食材のうちのペッパー、ナス、トマト、そして多くのスパイスはは、この地方に遅くに伝わってきたにもかかわらず、今ではほとんどの料理に使われています。アメリカ大陸原産のペッパー、トマト、ナスはユーフラテス川やチグリス川河畔の、沖積土が多い土地でよく育ちます。例えば現在アンテップやウルファのすべてのケバブ用のナスは、ユーフラテス川河畔のビレジック郡の中でもメズラ地区で採れたものです。同様に、チグリス川河畔でもすべての野菜や果物が豊富に採れますので、肉中心の料理はディヤルバクルへ近づいていくにつれてだんだんと野菜中心のものに変化していきます。 アメリカ大陸原産のトマト、ペッパー、ナスといった野菜は、この地方に16世紀にスペイン、南アフリカ、紅海、あるいはバスラ湾からシリアを通って伝わってきたと考えられています。また別の言い方で、今日のアナトリア料理に欠かせない野菜は、この地へメソポタミアを伝って入ってきたということができます。

飽くことがない味の料理は薪の火で調理されていました。森林があまりないこの地方で薪は東アナトリアや地中海地方などから持ってこられました。今から100年ほど前まで料理をするにも火を起こす燃料を見つけるのは、人口が継続的に増加していたことも併せて考えると、大変だったといえるでしょう。現在ウルファの代名詞にもなっている、もとはメキシコ原産のイソット(Capsicum annuum)は、この燃料の問題を解消してくれました。冷蔵庫や冷凍庫がなかったころ、南東アナトリアの暑さの中ですぐに悪くなってしまっていた肉は、イソットや様々なスパイスで調理され、ウルファの味として知られるチーキョフテ(火を通さずにスパイスの熱で調理するひき肉)も作られました。イソットはトルコ語の「ウス(熱)」と「オット(草)」という単語からできた名前です。

この地方でも大変珍重されているもうひとつの味は、アンテップ・ピスタチオです。乾いた気候と半砂漠環境に育つ植物であるアンテップ・ピスタチオは、ガズィアンテップ、ウルファ、マルディン、スィイルト県で豊富に採れます。

100グラムのアンテップ・ピスタチオは、滋養の面でも牛肉よりも上です。地方料理の主な要素である小麦から作られる生地のユフカ(薄い生地)、アンテップ・ピスタチオ、羊のバター、昔ははちみつでしたが今は砂糖でつくったシロップが一体となって、素晴らしい味のバクラヴァが誕生しました。

この地方では完全に豊かな天然資源から、ガズィアンテップをはじめとしてシャンルウルファ、マルディン、ディヤルバクル、スィイルト県の中心地など、互いに似通っていそうで全く異なった豊かなガストロノミーが発達しました。このガストロノミーは西へはアダナ―メルスィン、東はヴァン・ウードゥルまで広がっています。